【地区の跡地にて】






【地区の跡地にて】
2017.10.22
大量に降り積もってきた文字が止まって、でもサッカーボールはまだそこにいた。
あるとき振り返ると、帰るべき地区は、忽然と消えていた。
もう、あそこに帰ることはないだろうと、サッカーボールは、ぼんやりと思い、ただそれをじっと受け止めていた。
上空の左手には、大きな文字が変わらずに浮かんでいた。
自分は、ここに取り残されたのだ。
というより、自分はここからは出られない存在だったのかもしれない。
向こうから、誰かが歩いてきた。
あれは、mymulaさん?
そのとき、サッカーボールは自分の異変に気づいた。
自分のお腹の中からむくむくと何か毛のようなものがわいて、お腹にできた裂け目から、裏返るように外に膨らみだした。
白い毛?
遠ざかる視界と意識のなか、サッカーボールはゆっくり眠っていった。
mymulaがたどりついたとき、それは白い毛で覆われた大きな丸いものになっていた。
mymulaは、しゃがんで、それにそっと触った。白い動物の毛並みのような触り心地。ほんのりあたたかい。両手でちょうど抱きしめられるくらいの大きさで、mymulaが抱いて持ち上げると、少しだけ重みが感じられた。mymulaはそれを地面に置いて、抱いたまま、顔を寄せた。
「あなたは?」
とmymulaは聞いた。
それは、聞いたことのない不思議な声で応えた。
「わたしは、mymulaさんの中の彼女とのオモイデ」
「オモイデ? 思い出のこと? こんな形なのね」
「ね」
mymulaは嬉しかった。涙が出てきた。
オモイデが、ちょっと身体を膨らませたあとで言った。
「元気にしてる?」
mymulaは、意外な質問に、笑いながら答えた。
「まぁぼちぼち?」
オモイデは、その言葉に、自分のあたたかさを増して、返事をした。
mymulaは、そのあたたかさを受け取りながら、少し不安そうに
「ずっと、いてくれる?」
と聞いた。オモイデは、
「あなたが必要とする間は、ずっと」
と言った。
mymulaはわーんと泣いて、ぎゅーっとオモイデを抱きしめた。